クライオワン 見学会

去る86日、大阪の堺において、低温容器の国内草分けメーカーであるクライオワン社の見学会を同社のご厚意のもとに開催しました。
 低温や超電導に関わっている方々は、日ごろ何気なく CE(コールドエバポレーター)や小分け容器を使って液体窒素を利用されているでしょう。しかし、これらの容器の構造や仕様・性能については意外と知らないことも多いかもしれません。クライオワンは、そんな極低温容器を製造する代表的メーカーであり、特に、凍結保存容器においては、国内唯一の存在として、ips 細胞の研究をはじめとする再生医療の分野を陰でささえています。今回の見学会では、前半の講演の部で、クライオワン社とその製品の概要についてのご説明を、後半の見学会の部では、実際の製造現場をつぶさに見せていただく、というまたとない機会となりました。

講演の部では、先ず松田社長から会社概要をご説明いただきました。同社は2005年に日酸工業とダイヤ冷機工業が合併して、クライオワンとしてスタートしていますが、日酸工業は1957年から、ダイヤ冷機工業は1971年から低温容器を製造しており、専業メーカーとしての歴史は実に半世紀以上におよびます。現在、本社と工場は堺の臨海部にあるため、見学会に先立って、もしも地震が来たときの避難方法についても丁寧な説明も受けました(南海トラフ地震による現地の推定津波高さは1mだそうです)。

つぎに、楠本様からクイズタイムをご披露いただきました。同社は小学生の見学会等も積極的に受け入れられており、装置に関するものから堺のローカル情報まで、クイズ形式で楽しく理解を深めるものとしてまとめられており、地域に密着する取り組み姿勢が好印象でした。

最後に、泊口(とまりぐち)取締役から、製品紹介および技術説明をいただきました。同社が製造する容器は、液体窒素用を主として、サイズは2リットルから80トン(!!)までと多岐におよびます。また、数1000リットルクラスのCEは年産100台以上、一般的によく目にするLGC(リキッドガスコンテナ)に至っては年産2000本の生産能力を有しています。容器の断熱方法としては、真空、パーライト、グラスウール、多層断熱材が用途に応じて使い分けられます。例えば、移動(振動)をともなうローリーであればグラスウールを、固定式のCEであれば断熱性に勝るパーライトを、小型の可搬容器(LGC等)であれば多層断熱を、といった具合。特に、パーライトは断熱性維持のための乾燥工程が必要になりますが、工場内にはパーライトを乾燥させる炉と、それを製作中のCEに移送するライン(固気二相流)が設けられています。また、断熱層内への充填密度にもノウハウがあるとのこと。もちろん、真空断熱も併用して断熱性能が確保されるので、容器はヘリウムリークテストによって検査されますが、巨大なタンクをヘリウムガスで満たすのは非効率であることから、ヘリウム濃度を1/10に希釈して検査ガスとしているそうです。一方、同社が製造する容器のほとんどは高圧ガス容器になるので、材料や設計の管理は当然として、検査機関による現物検査も行われます。これだけ大量に生産しているのだから、検査の簡略化措置でもあるのかと思いきや、しっかり全数検査するとのこと。検査する方も受ける方も何とも大変なワークです。

さて、いよいよ後半の部の工場見学です。工場は、大型容器の製造工場と小型容器の製造工場の2棟から構成されます(いずれも2000平米クラス)。大型容器用工場は当然広いのですが、何より天井が高い(15m)。その工場のなかで、製作中のCEがところせましと並んでいる光景は正に圧巻です。容器として組み立てられるときは横置きで、最終的には縦置きにして完成させるので、高い天井が必要になるわけです。容器は鏡板と胴の組み合わせで構成されますが、鏡板の成型以外は全て自社内で施工されています。溶接工程は、自動と手動が溶接箇所に応じて使い分けられていました。

 

小型容器工場も大きいのですが、並んでいる容器は当然小さい。しかし、LGCが何100本もならんでいる光景は、これまた違う観点で圧巻。容器が多数あるので、真空排気は個別のポンプではなく、大型ポンプから配管が敷設されており、ここから分岐して同時に排気します。ちなみに、LGCは熱侵入を最小限に抑えるため、内層(貯液槽)は外層(真空槽)からステンレス製パイプ1本で機械的に支持(懸架)されています。そのパイプ(ネックとよばれる)の肉厚はたったの1mmで、品質維持の観点から丸棒からの削り出しで作られます。小型容器工場では、LGCの他に、凍結保存用の容器も製造されています。これらの容器はアルミ製(ステンレスの場合もある)ですが、より高い断熱性を確保するため、ネックの材料にはFRPを用います。特筆すべきは、金属製容器とFRP製ネックとの接合が、接着剤ではなくカシメを用いている点。さらに、そのカシメ方法は電磁式という特殊なものであり、門外不出の自社開発装置。この構造によって、信頼性の高い接合が可能になっています。

 以上、今回のクライオワン社見学会の報告とします。民間企業なので、当然ながら工場内の写真は撮影できませんでしたが、現物の姿と製造プロセスはつぶさに瞼に焼き付けさせていただきました。なお、この貴重な機会に立ち会えた幸運な参加者は全17名でした。最後に、見学会の場をご提供いただいたクライオワン社のご厚意に改めて感謝申し上げます。                   (レポート JASTEC伊藤)